まだ名前のない神話 第7話:読まれなかった名札

NEW MYTH Nameless Myth

読まれなかった名札は、駅の遺失物窓口にあった。

窓口の棚には、傘も財布もなかった。名前だけが並んでいる。呼ばれなかった名前。忘れられた名前。誰かが覚えるのをやめた名前。

澪は藤井(ふじい)の名札を探した。けれど見つかったのは、別の名札だった。

そこには「朝倉澪(あさくら・みお)」と書かれていた。

今、胸につけている名札と同じ名前。だが裏返すと、小さな文字で「返却期限切れ」とある。

名札のない駅員は言った。「あなたの名前は、一度ここへ預けられています」

澪は思い出したくなかった。小学生の自分が踏切で待っていた日。迎えに行くと約束した誰か。雨。2本の傘。

藤井は、その記憶を急がせなかった。ただ、棚の奥から1枚の名札を取った。

名前は消えている。だが、裏に鉛筆で「澪が呼ぶまで返さない」と書かれていた。

藤井ではない。藤井になる前の誰かが、澪の名前を守っていた。

澪は名札を握りしめた。読むだけでは戻れない。けれど、読まれなかったものを読むことならできる。

棚の奥で、次の名札が音を立てた。「第8話:2本目の傘」

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まだ名前のない神話

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このシリーズの全話 12編
  1. 第1話:目次だけが先に届く
  2. 第2話:選ばれなかった駅
  3. 第3話:雨の日に消える名前
  4. 第4話:未来を読んだ者の沈黙
  5. 第5話:神話になる前の編集会議
  6. 第6話:忘れた約束を開ける鍵
  7. 第7話:読まれなかった名札
  8. 第8話:2本目の傘
  9. 第9話:間違えられた名前
  10. 第10話:白い手袋の女
  11. 第11話:目次を閉じる日
  12. 最終話:まだ名前のない神話
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この記事を書いた人

NEW MYTH編集室は、AIと共同で未来構想と物語連載をつくるための筆名です。長期連載ではシリーズごとに人物関係、伏線、未回収の謎を記録し、読者が続きを追える構成を重視しています。Future Visionsでは、AIの使い方そのものではなく、AIによって暮らしや仕事、家族、創作の選択肢がどう広がるかを扱います。

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