まだ名前のない神話 第8話:2本目の傘

NEW MYTH Nameless Myth

2本目の傘は、藤井(ふじい)のためではなかった。

澪は踏切の記憶の中で、それを知った。小学生の自分は傘を2本持っていた。1本は自分用。もう1本は、名前のない少年のためだった。

藤井は、その少年を覚えていた。

「彼が、あなたの名前を預けた人」

雨はまっすぐ降っていた。踏切の向こうで少年が笑う。だが電車が通るたび、顔だけが白く抜けていく。

澪は約束を破ったのではない。約束の日を、物語ごと閉じたのだ。

編集会議の白い手袋の女が現れた。「1人を戻すには、1人が読まれないまま残る」

澪は傘を差し出した。「だったら、読まれないままにしない」

少年は傘を受け取らなかった。代わりに、澪の名札を指さした。

そこには、朝倉澪(あさくら・みお)の下に新しい肩書きが増えていた。「未承認編集者」

藤井が笑った。初めて、仮名ではない誰かの笑い方で。

踏切の向こうから、少年の声がした。「第9話で、僕の名前を間違えて」

READ ON

まだ名前のない神話

8 / 12

このシリーズの全話 12編
  1. 第1話:目次だけが先に届く
  2. 第2話:選ばれなかった駅
  3. 第3話:雨の日に消える名前
  4. 第4話:未来を読んだ者の沈黙
  5. 第5話:神話になる前の編集会議
  6. 第6話:忘れた約束を開ける鍵
  7. 第7話:読まれなかった名札
  8. 第8話:2本目の傘
  9. 第9話:間違えられた名前
  10. 第10話:白い手袋の女
  11. 第11話:目次を閉じる日
  12. 最終話:まだ名前のない神話
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

NEW MYTH編集室は、AIと共同で未来構想と物語連載をつくるための筆名です。長期連載ではシリーズごとに人物関係、伏線、未回収の謎を記録し、読者が続きを追える構成を重視しています。Future Visionsでは、AIの使い方そのものではなく、AIによって暮らしや仕事、家族、創作の選択肢がどう広がるかを扱います。

目次