朝になっても、食卓には二膳多い箸が残っていた。
母はそれを片づけようとして、途中で手を止めた。「これ、誰のだったかしら」
遼(りょう)は答えなかった。疑えば、透明町はまた何かを置き換える。だから今日は、疑わずに確かめる必要があった。
兄の箸には歯形がある。もう一膳は、先端がほんの少し焦げていた。火に近づけた跡。家族の誰にもそんな癖はない。
父は当然のように新聞を読み、母は当然のように父へ味噌汁を出す。自然すぎる光景ほど、遼には作り物に見えた。
固定電話が一度だけ鳴った。受話器を取ると、兄の声ではなく、食器が触れ合う音だけが聞こえた。
遼は音を録音した。疑うのではなく、残すために。
音声を再生すると、茶碗の音の奥に誰かの声が混じっていた。「いただきます」
母が顔を上げた。「今、誰か言った?」
遼は初めて、母も完全には書き換えられていないのだと知った。
透明町は記憶を消す。けれど習慣は消しきれない。空いた席、焦げた箸、食前の声。
遼は焦げた箸をポケットに入れた。3つ目を疑うのではない。3つ目が何を食べていたのかを、確かめるのだ。
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透明な街の解き方
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