2枚目を撮った少年
集合写真を撮ってくれた高校生は、駅前の写真店でアルバイトをしていた。名前は戸塚蓮。玲奈が画像の撮影者情報を調べると、機種名の横に店の管理番号が残っていた。翌朝、4人で店を訪ねると、蓮は私たちを見る前から青い傘へ目を止めた。
「やっぱり来たんですね」と彼は言った。
私たちは誰も、その言葉を予想していなかった。蓮は3か月前、真琴から1件の依頼を受けていた。青い傘を地面へ置く4人組が現れたら、頼まれなくても2枚撮ること。1枚は4人が並んだ後、もう1枚は並ぶ前。そして2枚目だけ、撮影者名を「M_5」に書き換えること。
「顔は知らされてなかったの?」と灯里(あかり)。
「傘と、4人が互いに立つ場所を決められず笑うこと。それが目印だって」
真琴は未来を予言していなかった。4人の癖を知り、出会える確率を高くした。それでも、3か月前の真琴がなぜ私たちの現在の選択を読めたのかという問いは残った。
反射の正体
蓮は元画像を店の大きなモニターへ映した。ガラスに見えた長い髪は、向かいの美容室の広告だった。右肘のように見えた線は、街路樹を支える金具。人は一度真琴だと思うと、無関係な形を真琴へ集めてしまう。
周が苦笑した。「幽霊じゃなかった」
「残念?」と玲奈が聞く。
「少し。いてほしいと思ったから」
灯里は否定しなかった。私も同じだった。真琴の計画から卒業すると言いながら、写真の端に真琴を探していた。5人目の影は、誰かが潜んでいた証拠ではない。4人全員が空席へ同じ人を置いた結果だった。
けれど、画像情報の「M_5」は本物だ。真琴は私たちが誤認することまで計画に入れた。蓮によれば、依頼書には「正体を当てさせないでください。自分たちが何を見たがったか、話し合わせてください」と書かれていた。真琴は答えを残さず、会話が起きる条件を残した。
頼まれた人の事情
蓮が依頼を引き受けたのは、報酬のためだけではなかった。真琴は写真店に何度も通い、蓮が撮った写真を1枚ずつ見ていたという。彼は写真部で、人物の顔を正面から撮れないことに悩んでいた。家族を撮ると、撮影した自分だけが家族写真から消える気がしたからだ。
真琴は彼へ「撮る人も写真の出来事に含まれる」と教えた。姿が写らなくても、距離、声、待った秒数が写真に残る。今回、蓮は頼まれていない1枚目を撮るとき、私たちが並ぶまで9秒待った。その9秒のおかげで、私は青い傘を閉じることができた。
「僕が押したって言ったら、写真の意味は薄くなりますか」
私は首を振った。「むしろ増えた。私たちだけで作った1日じゃなかったから」
蓮にも翌日の共有アルバムを見せた。彼は参加者にはならず、撮影者欄へ自分の名前を入れた。それが、真琴の匿名の演出から一歩外へ出る小さな選択だった。
真琴を使わない決定
店を出たあと、灯里は延期した式の招待状を4人の前へ並べた。真琴の指示を探すのではなく、誰を招きたいかを1人ずつ書く。周は蓮の名前を追加し、玲奈は途中で帰れる席を本当に用意すると決めた。私は翌朝の食事場所を予約した。
「真琴なら喜ぶかな」と灯里が言いかけて、口を閉じた。
代わりに「私は、これでうれしい」と言い直した。
その言葉に誰も拍手しなかった。大げさに祝えば、また正しい選択へ固定してしまいそうだった。ただ4人で日付を確認し、都合が悪くなったら変えていいと書き添えた。
恋人を選ぶ話だと思っていた時間は、選択を誰へ返すかという話へ変わっていた。灯里は花嫁役から降りても式を選べる。周は支える役をやめても参加できる。玲奈は真相を暴かなくても関係を続けられる。私は頼られる役を手放して、頼むことができる。進展は劇的な告白ではなく、4人が自分の主語を取り戻したことだった。
未現像の1本
蓮が店から追いかけてきた。手には細長い銀色の筒があった。真琴が依頼書と一緒に預けた未現像フィルムで、集合写真を撮り終えたら渡すよう指定されていた。
「現像は、皆さんが決めてください。見ない選択も含めて」
4人はその場で開けなかった。以前なら玲奈が証拠として持ち帰り、周が安全を確認し、灯里が真琴の意図を推測し、私は全員の希望を調整しただろう。今回は喫茶店へ移り、1人ずつ意見を言った。
見たい人が3人、今は見たくない人が1人。多数決にはしなかった。フィルムを店へ預けたまま、まず索引だけ確認することにした。内容を見なくても、撮影日と本数と宛名なら分かる。
蓮が保管票を読み上げた。撮影日は、灯里が初めて「花嫁でいいと思う?」と私へ尋ねた日。枚数は二十四。宛名欄には、4人の名前も真琴の名前もなかった。
「灯里のお母さまへ」。
灯里の母は、式の話が始まる1年前から行方が分からない。写真は恋人たちの秘密ではなく、灯里が一度も語らなかった家族の空白へつながっていた。
シャッターのあと
夕方、蓮にもう1枚だけ撮影を頼んだ。今度は4人ではなく、蓮を含めた5人で写る写真だ。通行人へカメラを渡すと、蓮は端へ逃げようとした。私は彼の袖をつかまず、中央へ来てほしいと頼んだ。
撮影後、蓮は初めて自分が写る写真を長く見た。「撮った人がいなくても、写真は成立するんですね」
「いないんじゃなくて、交代しただけ」と玲奈が言った。
共有アルバムへ画像を入れる。タイトルは「シャッターを押した人」。説明欄には蓮だけでなく、通行人の名を尋ねて記した。誰か1人の演出で人生ができたように見せないためだ。
帰宅すると、灯里から短いメッセージが来た。「母の写真、見るのが怖い。でも、怖いって先に言えてよかった」。私は「一緒に決めよう」と返した。答えも慰めも足さなかった。
真琴の影を探す回は終わった。次に向き合うのは、灯里がずっと物語の外へ置いていた母だ。未現像の24枚には、祝福か告発か、それとも何でもない日常が写っている。何であっても、今度は誰かの意図ではなく、灯里自身が見る日を選ぶ。
写らない人の名前
写真店には、過去1年分の「撮影者カード」が保管されていた。撮影した人が写真に入らないとき、名前か匿名の印を残すために蓮が作ったものだ。真琴のカードだけは空欄だった。匿名を望んだのではなく、「この写真を見た人が、撮った人を決めつけないため」と理由が書かれている。
玲奈は空欄を証拠不足と呼ばなかった。周も、真琴の筆跡だと断定しなかった。灯里はカードの複写を受け取り、母の未現像フィルムと一緒に考えると決めた。私は以前なら空欄を埋める役を引き受けただろう。今回は、空欄のまま保管する期限を決めた。
蓮は店の壁へ新しい説明を貼った。「写真には、写る人、撮る人、見る人がいます。名前を残さないことも選べます」。真琴の仕掛けは4人の秘密だけを動かしたのではない。蓮の仕事のやり方を1つ変えた。
4人は写真の複写を1枚ずつ持ち帰った。同じ写真でも、灯里は母の空白を見て、周は真琴の準備を見て、玲奈は誤認の仕組みを見て、私は頼めた自分を見た。答えが1つでないことは、関係が壊れている証拠ではない。別々に見たものを、次に会ったとき持ち寄れる。それが今の4人をつなぐ約束になった。
帰り道には、今日起きたことを説明し切れない静けさがあった。けれど、何も進まなかった静けさではない。言えなかったことを1つ言い、決めつけていた答えを1つ外し、次に会う理由を1つ作った。大きな結論へ急がなくても、その3つがあれば昨日と同じ場所には戻らない。次の問いは今日を否定するものではなく、今日を通った人だけが持てる問いとして、それぞれの手元に残った。
その日の終わりに、解決したことと同じ大きさで、まだ分からないことが残った。真琴が高校生へ預けた未現像フィルムの宛名は、4人の誰でもなく「灯里の母」だった。 それは今日の進展を打ち消す不安ではない。登場人物たちが自分で選んだからこそ、初めて見えるようになった次の問いだった。
四人目の恋人
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