四人目の恋人 第14話:翌日の集合写真

まだ来ていない翌日

写真の裏には、延期された式の翌日の日付が書かれていた。年も月も合っている。だが、その日はまだ三週間先だ。写真の中で、灯里(あかり)は白いワンピースの裾を押さえ、周は紙コップを掲げ、玲奈は目を閉じて笑っていた。語り手である私は、真琴がいつも使っていた青い傘を持っている。4人とも、今より少しだけ疲れて、今よりずっと安心した顔をしていた。

「予言の写真なんて、真琴の趣味じゃない」灯里が言った。「あの子は未来を当てるより、予定を立てる方が好きだった」

玲奈は写真を窓に透かした。印画紙ではない。家庭用プリンターの薄い光沢紙で、端には切り取り線が残っている。裏の数字も撮影日時ではなく、ファイル名を手書きしたものだった。怖がるより先に調べる。それが、真琴が4人に残した最後の癖だった。

写真にある9つの手がかり

周が拡大画像を作った。駅前広場の時計は午後4時12分。背後のパン屋には「火曜定休」の札がある。式の翌日は火曜日ではない。植木鉢の花は三週間後には咲かないはずの春の花。灯里の靴は昨年処分したもの。私の傘だけが今も実在する。

「1枚の未来じゃない」玲奈が鉛筆で丸をつけた。「何日分もの写真を重ねてる」

9つ目の手がかりは、ガラスに映った撮影者の腕だった。真琴の細い腕ではない。セルフタイマーなら腕は映らない。4人のうち誰かが撮った写真を、真琴が後から1枚に組み直したのだ。

灯里は、写真の四隅に薄く残る文字を読んだ。「翌日を、先に決めておく」。結婚式の翌日ではなかった。誰かを選ぶ、誰かに選ばれない、その結果で人生が終わったように感じる夜の、その翌日だ。真琴は4人に、失恋の次の日を予約させようとしていた。

真琴の編集表

写真と一緒に保管されていたクラウドフォルダには、4人の名前を列にした表があった。行には「朝ごはん」「鍵を返す」「写真を撮る」「1人で帰らせない」「次の約束」とある。恋人候補を採点する表ではない。傷ついた人が翌日を迎えるための役割分担だった。

私は自分の列を見た。朝ごはんの欄だけ、何度も色が塗り直されている。真琴は私が誰かの世話をすることで、自分の寂しさを見ないふりにすることを知っていたらしい。最後の版では、私の役割は空欄だった。

「何もしなくていい人も必要、ってことかな」

灯里は首を振った。「何もしない役じゃない。頼む役。あなたはずっと、頼まれる側に逃げてたから」

その言葉は痛かったが、痛みの向こうに出口があった。私は初めて3人に、三週間後の午後を空けてほしいと頼んだ。写真と同じ場所へ行きたい。真琴の計画を再現するためではなく、私たち自身の翌日を撮るために。

選ばれなかった場所へ

三週間を待たず、4人はその日の夕方に駅前広場へ行った。予行演習と呼ぶと真琴の企画に従うようなので、玲奈は「ただの散歩」と言い張った。パン屋は営業中で、春の花はなく、時計は4時12分ではなかった。写真と同じものは青い傘だけだった。

周が4つの紙コップに熱い紅茶を買った。灯里は、延期した式をどうするかをここで決めたいと言った。中止でも再開でも、真琴への返事として決めるのはやめる。周も玲奈も私も、助言ではなく自分の希望を1つずつ言った。

「小さくやりたい」と灯里。

「スピーチはしたくない。でも写真には入りたい」と周。

「途中で帰れる席がほしい」と玲奈。

私は紅茶の蓋を押さえながら言った。「終わった次の日に、4人で朝ごはんを食べたい」

誰も、真琴ならどう言うかを口にしなかった。それが寂しく、同時に正しかった。

本物の集合写真

通りかかった高校生に頼み、4人で写真を撮った。立ち位置は合成写真と違った。灯里は中央に立たず、周は紙コップを掲げず、玲奈は目を開けていた。私は青い傘を閉じ、地面に置いた。

撮影の直前、灯里が小声で言った。「4人目って、順番じゃなかったんだね」

「うん。後回しにされた人でもない」

「じゃあ何?」

私は3人の顔を見た。「自分を数え忘れた人」

シャッターが切られた。写真を確認すると、全員が別々の方向を見ていた。それでも、不思議なくらい一緒にいる写真だった。未来の見本ではなく、今日の証拠だった。

帰り道、私は写真を真琴のフォルダへ入れず、新しい共有アルバムを作った。名前は「翌日」。最初の予定に、式の翌朝の店と時間を登録した。4人全員が参加を押した。

5人目

夜、玲奈から画像が届いた。高校生のカメラには2枚残っていたという。1枚目は、私たちが頼んだ集合写真。2枚目は、その3秒前。まだ誰も並んでおらず、青い傘だけが地面にある。

ところがガラスの反射には、カメラを構える人物が映っていた。高校生ではない。長い髪を結び、真琴の癖と同じように右肘を少し上げている。顔は街路樹の影に隠れていた。

画像の情報欄には、撮影者名が自動で入っていた。

「M_5」。

5人目。あるいは、真琴が最後まで数えなかった誰か。

私は怖いとは思わなかった。けれど、真琴が残した計画は終わっていないのだと分かった。写真を撮ったのは誰か。私たちは次に、カメラの向こう側にいた人を探すことになった。

翌日を選ぶ練習

4人は翌朝、同じ共有アルバムに1枚ずつ写真を足した。灯里は式場から届いた見積書の裏に、自分が残したいものと手放したいものを書いた。残すのは誓い、食事、写真。手放すのは、誰にも迷惑をかけない花嫁でいること。周は空になったスピーチ原稿、玲奈は途中で帰るために調べた最終電車、私は父から借りた古いトースターを撮った。きれいな写真は1枚もなかった。

真琴が作った合成写真は、4人を同じ場面へ置くために矛盾を重ねていた。私たちのアルバムは、別々の朝を別々のまま並べた。それでも、コメント欄には会話が生まれた。「そのトースター、まだ動く?」「最終電車より早く帰ってもいい」「見積書、今日一緒に断ろうか」。誰かの恋人である前に、頼み、断り、返事を待てる関係へ変わり始めた。

昼、式場の担当者と4人で話した。灯里は延期の理由を真琴の不在だけにせず、「私が自分の希望を言えなかったから」と説明した。担当者は責めず、規模を半分にした新しい案を出した。空いた席を故人のために飾る案にはしなかった。真琴を忘れないことと、真琴の不在を式の主役にすることは違う。

帰りに、青い傘の骨が1本折れた。私は捨てるか迷ったが、修理店へ持ち込んだ。店主は「元通りにはならないが、使える形にはなる」と言った。3人はその言葉に笑った。私たちの関係を説明するには、少し出来すぎていたからだ。

修理の控えを撮ると、画像の端にまた知らない影が映った。今度は長い髪ではない。子どものように低い位置から、こちらを見上げている。撮影者名は空白だった。真琴が1人の5人目を隠したのではなく、写真の外には複数の人がいるのかもしれない。

私は恐怖より先に、確認事項を共有アルバムへ書いた。撮影場所、時刻、端末、周囲にいた人。玲奈が「探偵ごっこになってきた」と返信し、周が「恋愛ものじゃなかったの」と続け、灯里が「恋愛は人数が増えると調査になる」と締めた。

久しぶりに4人全員が、同じ冗談で笑った。翌日は、悲しみが消えた日ではない。悲しみ以外の予定も入れられる日だった。

翌朝、青い傘の修理完了日は、偶然にも式の翌日だった。私は受取人欄へ4人の名前を書き、店主に1人では受け取れないかと尋ねた。店主は不思議そうにしながらも了承した。4人で取りに行く予定が、共有アルバムへもう1つ増えた。未来の写真を信じる代わりに、未来へ行くための約束を自分たちで作る。それが真琴の計画から卒業する最初の方法だった。

その日の記録には、解決したことと同じ大きさで、まだ分からないことも残された。撮影を終えたカメラに、誰も撮っていない5人目の影が残った。 それは今日の成果を打ち消す不安ではない。今日選んだ行動があったからこそ見えるようになった、次の問いだった。登場人物たちは答えを急がず、確かめるための時間と、もう一度会う約束を先に作った。

READ ON

四人目の恋人

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このシリーズの全話 16編
  1. 第1話:招待状は3通届いた
  2. 第2話:写真の中で笑っていた人
  3. 第3話:水曜日の海
  4. 第4話:笑っていた人を信じないで
  5. 第5話:親友だった人
  6. 第6話:来ないで、止めに来て
  7. 第7話:式場に先にいた人
  8. 第8話:祝辞を書いた人
  9. 第9話:花嫁のいない控室
  10. 第10話:誰も選ばなかった指輪
  11. 第11話:灯里が帰る場所
  12. 第12話:5人目への招待状
  13. 第13話:4人目ではなかった人
  14. 第14話:翌日の集合写真
  15. 第15話:シャッターを押した人
  16. 最終話:母に届かなかった写真
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この記事を書いた人

NEW MYTH編集室は、AIと共同で未来構想と物語連載をつくるための筆名です。長期連載ではシリーズごとに人物関係、伏線、未回収の謎を記録し、読者が続きを追える構成を重視しています。Future Visionsでは、AIの使い方そのものではなく、AIによって暮らしや仕事、家族、創作の選択肢がどう広がるかを扱います。

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