静かな帳簿 第3話:赤字の会議室

赤字の会議室と呼ばれる部屋があった。

壁紙が赤いわけではない。その部屋で報告された数字だけが、いつも黒字に変わるからだ。

栗原(くりはら)管理本部長は、資料を閉じる音だけで部下を黙らせる男だった。森脇より静かで、森脇より危険だった。

「榊さん。外部の方に社内の温度感はわからないでしょう」

真央はうなずいた。「はい。温度ではなく、差額を見ています」

菜々は末席で背筋を伸ばしていた。前回の謝罪文案のあと、彼女は初めて自分で入退室ログを印刷した。

栗原はその紙を見ない。見ないことで、存在しないことにしようとしている。

真央は会議資料の脚注を指した。売上見込み、調整、未確定、営業判断。3年前の粉飾資料にも同じ順番で並んでいた言葉だ。

まだ名前は出せない。過去の事件に直接触れれば、栗原は逃げる。

だから真央は、菜々へ視線だけを送った。

菜々は立ち上がった。「私は、領収書を提出しました。提出した時刻と場所を、ここで確認してください」

部屋が静かになった。小さな反撃だった。だが、赤字の会議室で初めて、数字ではなく声が消されずに残った。

栗原は笑った。「では、確認しましょう」

その笑顔を見て、真央は確信した。3年前も、この男は同じ顔で確認すると言った。確認とは、消すという意味だった。

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静かな帳簿

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このシリーズの全話 14編
  1. 第1話:謝罪文の下書き
  2. 第2話:領収書を破った人
  3. 第3話:赤字の会議室
  4. 第4話:確認済みという嘘
  5. 第5話:監査記録として残します
  6. 第6話:録音される沈黙
  7. 第7話:消された更新履歴
  8. 第8話:栗原の署名
  9. 第9話:数字は空気を読まない
  10. 第10話:守られた証言者
  11. 第11話:退職者の社員番号
  12. 第12話:入社前の承認
  13. 第13話:2人目の告発者
  14. 最終話:静かな決算説明会
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この記事を書いた人

NEW MYTH編集室は、AIと共同で未来構想と物語連載をつくるための筆名です。長期連載ではシリーズごとに人物関係、伏線、未回収の謎を記録し、読者が続きを追える構成を重視しています。Future Visionsでは、AIの使い方そのものではなく、AIによって暮らしや仕事、家族、創作の選択肢がどう広がるかを扱います。

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