栗原(くりはら)は、確認済みという言葉を好んだ。
確認済み。対応済み。共有済み。3つ並べると、何もしていないことが仕事に見える。
真央は会議後、菜々に聞いた。「栗原さんから確認の連絡は来ましたか」
菜々は首を振った。「来ていません。でも議事録には確認済みって」
予想通りだった。
真央は議事録の更新履歴を開いた。作成者は森脇。最終更新者は栗原。だが、添付された入退室ログは開かれていない。
確認済みとは、見たという意味ではない。見たことにした、という意味だ。
日下部から連絡が入った。「3年前の議事録も同じ表現だ。確認済み、対応済み、共有済み」
真央は画面を閉じた。まだ過去の名前は出せない。けれど現在の嘘なら、今ここで止められる。
菜々は震えながらも言った。「私、もう謝罪文は書きません」
それだけで10分だった。真央は栗原宛に1通送る。
「確認済みの定義について、監査記録として回答をお願いします」
逃げ道は、まだ閉じない。相手が自分で扉を選ぶまで、真央は待つ。
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静かな帳簿
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