最後の手紙を、君が読む日 第3話:名前のない誕生日

依頼人は、誕生日を忘れた母親だった。

娘はもういない。22歳の春、事故で亡くなった。母親は葬儀のあと、娘の部屋で未開封の小さな箱を見つけた。

中には、安い10000年筆が入っていた。カードには「お母さんへ」とだけある。日付は、母親が忘れた娘の誕生日だった。

「あの子の誕生日なのに、私への贈り物を用意していたんです」

母親は泣かなかった。泣く資格がないと思っている人の顔だった。

奏は、娘のスマートフォンに残された買い物メモを確認した。10000年筆、青インク、便箋。最後に「誕生日、怒らない」と書かれている。

忘れられた側も、傷つかなかったわけではない。ただ、怒るより先に、許す準備をしていた。

奏は手紙を作らなかった。代わりに、カードの裏に残っていた筆圧を光で読み、消えかけた下書きを復元した。

「今年は、私の誕生日をお母さんにあげます」

母親はそこで初めて泣いた。

帰宅した奏は、母の封筒の日付を見た。自分の誕生日ではない。母の誕生日でもない。

それは、奏が母に最後に怒鳴った日の翌日だった。

READ ON

最後の手紙を、君が読む日

3 / 24

このシリーズの全話 24編
  1. 第1話:声のない留守番電話
  2. 第2話:空の弁当箱
  3. 第3話:名前のない誕生日
  4. 第4話:青インクの消印
  5. 第5話:まだ早い手紙
  6. 第6話:好きな場所へ行きなさい
  7. 第7話:空席の指定席
  8. 第8話:母の声を知らない日
  9. 第9話:読まないでいた理由
  10. 第10話:頼みごとの封筒
  11. 第11話:同じ日付の依頼人
  12. 第12話:返事を持つ姉
  13. 第2部序章:3年後への配達
  14. 第2部第1話:先に届いた消印
  15. 第2部第2話:閉まる予定の事務所
  16. 第2部第3話:開く前の予約
  17. 第2部第4話:母が受け取った手紙
  18. 第2部第5話:第13箱の受取人
  19. 第2部第6話:十四番の空欄
  20. 第2部第7話:14年前の返送人
  21. 第2部第8話:亡き人への返事
  22. 第2部第9話:消えた第15箱
  23. 第2部第10話:頼みごとの封筒
  24. 第2部第11話:3年前の取消票
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

NEW MYTH編集室は、AIと共同で未来構想と物語連載をつくるための筆名です。長期連載ではシリーズごとに人物関係、伏線、未回収の謎を記録し、読者が続きを追える構成を重視しています。Future Visionsでは、AIの使い方そのものではなく、AIによって暮らしや仕事、家族、創作の選択肢がどう広がるかを扱います。

目次