まだ名前のない神話 第6話:忘れた約束を開ける鍵

NEW MYTH Nameless Myth

鍵は、会議室の扉の向こうではなく、澪の通学路に落ちていた。

それは金属ではなかった。小さな紙片だった。折りたたまれた紙の端に、藤井(ふじい)の仮名と、澪の筆跡が重なっている。

「約束は、覚えている人が2人いないと開きません」名札のない駅員は、踏切の反対側でそう言った。

澪は紙を開いた。そこには、子どもの字で「雨の日に迎えに行く」と書かれている。誰を迎えに行くのかは、削られていた。

藤井は隣で黙っていた。名前が仮のままだから、思い出すたびに輪郭が少し変わる。昨日より背が低く見え、声だけが妙に近い。

「私を忘れたのは、事故じゃないよ」藤井は言った。「澪が、忘れるって決めた」

その瞬間、踏切の警報音が鳴った。遮断機の向こうに、小学生の澪が立っている。傘を2本持ち、泣きそうな顔で誰かを待っていた。

澪は走ろうとした。けれど足元の白線に、編集会議の議事録が浮かぶ。「読者代表は、過去を救うために未来を消費してはならない」

意味はわからない。だが、進めば何かを失うことだけはわかった。

藤井が紙片を澪の手から取った。「鍵は、約束を守るためにあるんじゃない。破った場所を開けるためにある」

踏切が上がると、小学生の澪はいなかった。代わりに、ランドセルを背負った少年が立っていた。編集会議にいた少年だ。

少年は言った。「次は、君が忘れた名前を読む番だ」

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まだ名前のない神話

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このシリーズの全話 12編
  1. 第1話:目次だけが先に届く
  2. 第2話:選ばれなかった駅
  3. 第3話:雨の日に消える名前
  4. 第4話:未来を読んだ者の沈黙
  5. 第5話:神話になる前の編集会議
  6. 第6話:忘れた約束を開ける鍵
  7. 第7話:読まれなかった名札
  8. 第8話:2本目の傘
  9. 第9話:間違えられた名前
  10. 第10話:白い手袋の女
  11. 第11話:目次を閉じる日
  12. 最終話:まだ名前のない神話
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この記事を書いた人

NEW MYTH編集室は、AIと共同で未来構想と物語連載をつくるための筆名です。長期連載ではシリーズごとに人物関係、伏線、未回収の謎を記録し、読者が続きを追える構成を重視しています。Future Visionsでは、AIの使い方そのものではなく、AIによって暮らしや仕事、家族、創作の選択肢がどう広がるかを扱います。

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