青インクの手紙には、消印がなかった。
差出人は10年前に亡くなった父。受取人は、いま娘を育てている女性だった。
女性は言った。「父は、私が母になる前に死にました。なのにこの手紙には、子どもの名前が書いてあるんです」
奏はインクの滲みを調べた。紙は古い。だが、子どもの名前だけ筆圧が違う。
誰かがあとから書き足したのではない。父は、娘がいつかその名前を選ぶと信じていた。
手紙には育児の助言はなかった。ただ「眠れない夜は、自分が弱いと思わなくていい」と書かれていた。
女性は読みながら、赤ん坊を抱きしめた。
届かなかった手紙にも、宛先は残る。届く時期を間違えただけの言葉もある。
奏は帰宅後、母の封筒に青インクの滲みを見つけた。
自分の筆跡の日付。その下に、母の字で小さく「まだ早い」と書かれていた。
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最後の手紙を、君が読む日
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このシリーズの全話 24編
- 第1話:声のない留守番電話
- 第2話:空の弁当箱
- 第3話:名前のない誕生日
- 第4話:青インクの消印
- 第5話:まだ早い手紙
- 第6話:好きな場所へ行きなさい
- 第7話:空席の指定席
- 第8話:母の声を知らない日
- 第9話:読まないでいた理由
- 第10話:頼みごとの封筒
- 第11話:同じ日付の依頼人
- 第12話:返事を持つ姉
- 第2部序章:3年後への配達
- 第2部第1話:先に届いた消印
- 第2部第2話:閉まる予定の事務所
- 第2部第3話:開く前の予約
- 第2部第4話:母が受け取った手紙
- 第2部第5話:第13箱の受取人
- 第2部第6話:十四番の空欄
- 第2部第7話:14年前の返送人
- 第2部第8話:亡き人への返事
- 第2部第9話:消えた第15箱
- 第2部第10話:頼みごとの封筒
- 第2部第11話:3年前の取消票
