まだ早い。
母の字でそう書かれていた。
奏は3年間、封筒を開けられない自分を責めていた。逃げていると思っていた。弱いと思っていた。
けれど母は、読む時期のことを書いていた。
その日の依頼は、祖父から孫へ宛てた手紙だった。孫はまだ8歳。母親は、今読ませるべきか迷っていた。
手紙には難しい言葉が多かった。戦争、後悔、許し、家を継がなくていいという願い。
奏は、全文を渡さなかった。代わりに一行だけをカードにした。
「好きな場所へ行きなさい」
残りは、16歳になったときに読めるよう封をした。
言葉は、早く届けばいいわけではない。重すぎる愛情は、時期を間違えると荷物になる。
帰宅した奏は、母の封筒を棚に戻した。
逃げではなかった。まだ早いと書いた母を、初めて信じることにした。
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最後の手紙を、君が読む日
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このシリーズの全話 24編
- 第1話:声のない留守番電話
- 第2話:空の弁当箱
- 第3話:名前のない誕生日
- 第4話:青インクの消印
- 第5話:まだ早い手紙
- 第6話:好きな場所へ行きなさい
- 第7話:空席の指定席
- 第8話:母の声を知らない日
- 第9話:読まないでいた理由
- 第10話:頼みごとの封筒
- 第11話:同じ日付の依頼人
- 第12話:返事を持つ姉
- 第2部序章:3年後への配達
- 第2部第1話:先に届いた消印
- 第2部第2話:閉まる予定の事務所
- 第2部第3話:開く前の予約
- 第2部第4話:母が受け取った手紙
- 第2部第5話:第13箱の受取人
- 第2部第6話:十四番の空欄
- 第2部第7話:14年前の返送人
- 第2部第8話:亡き人への返事
- 第2部第9話:消えた第15箱
- 第2部第10話:頼みごとの封筒
- 第2部第11話:3年前の取消票
