焦げた箸は、熱を持っていた。
昨夜から一晩経ったのに、先端だけが微かに温かい。遼(りょう)はそれをハンカチで包み、兄の部屋へ向かった。
兄の部屋は、物置になっていた。家族が兄を忘れかけている証拠だ。
押し入れの奥に、小さなコンロがあった。キャンプ用の古い道具。兄が一度も使わせてくれなかったものだ。
その箱に、焦げた箸と同じ匂いが残っていた。
遼は疑わない。確かめる。コンロの写真を撮り、台所の母に見せた。
母は写真を見て、目を細めた。「これ、伊月(いつき)が誕生日に欲しがったやつ」
名前が戻った。
一瞬だけだった。母はすぐに「誰だっけ」とつぶやいた。けれど遼は録音していた。
焦げた箸の持ち主は兄ではない。兄と一緒に火を囲んだ誰かだ。
透明町の住人は、家族の外から来たのではない。家族が語らなかった場所に、最初から座っていた。
その夜、兄から1枚の写真が届いた。焚き火の前に、遼、伊月、そして顔のない子どもが写っていた。
READ ON
透明な街の解き方
5 / 10
