嘘には、買い手がいる。
真砂(まさご)はそう信じてきた。欲望を持つ者だけが嘘を買う。だから欲望を読めば、嘘は売れる。
だが、今回の買い手は違った。
黒瀬(くろせ)へ渡すはずだった情報を、先に受け取った人物がいた。榊原志津の孫、綾乃。
綾乃は真砂を責めなかった。「祖母は、庭が残っていると思っています」
「残っていない」
「知っています」
綾乃は紙の花を机に置いた。「でも、その嘘で祖母は毎朝起きています」
真砂は返す言葉を失った。
奪う嘘と、生かす嘘。線を引くのは簡単だと思っていた。だが、同じ嘘が片方では救いになり、片方では土地を奪う道具になる。
黒瀬から電話が来た。「君は買い手を間違えた」
真砂は笑った。「いいえ。売り場を間違えただけです」
その瞬間、彼は初めて、誰かを騙すためではなく、誰かを守るために嘘の値段を吊り上げることを考えた。
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嘘を売る人
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このシリーズの全話 24編
- 第1話:白紙の契約者
- 第2話:存在しない地主
- 第3話:紙の花を折る女
- 第4話:父の住所で待つ男
- 第5話:買い手を間違えた嘘
- 第6話:値段のない庭
- 第7話:黒瀬の寄付
- 第8話:悪役の領収書
- 第9話:嘘を買わなかった人
- 第10話:白紙に書かれた本名
- 第11話:嘘を売らない女
- 第12話:父が買わなかった真実
- 第2部第1話:未決済の買い手
- 第2部第2話:未来の領収書
- 第2部第3話:正直屋の開店日
- 第2部第4話:相棒を売った封筒
- 第2部第5話:2日目の値札
- 第2部第6話:値段のない上司
- 第2部第7話:空白の代替要員
- 第2部第8話:回答者の消えた面接票
- 第2部第9話:買われなかった署名
- 第2部第10話:父が断った依頼
- 第2部第11話:依頼人ではない代理人
- 第2部第12話:開店前の正直屋
