招待状は、3通届いた。
1通目は、私の本名で。
2通目は、昔の恋人だけが呼んでいた名前で。
3通目は、私がこの世で一度も名乗ったことのない名前で。
差出人はすべて同じだった。
春野灯里(はるの・あかり)
私の親友で、来月結婚する人。
灯里とは大学の入学式で出会った。彼女は最初から、誰かの隣にいるのが自然な人だった。教室でも、駅でも、旅行先でも、灯里のまわりには人が集まる。明るいというより、相手に自分の居場所を思い出させるのがうまい。
私はそういう人を、少し苦手で、ひどく好きだった。
封筒を1通ずつ開ける。
1通目には、普通の結婚式の案内が入っていた。日時、場所、返信はがき。新郎の名前は、もちろん知っている。
柏木周(かしわぎ・しゅう)。
灯里の婚約者。穏やかで、礼儀正しくて、誰に紹介しても安心できる人。私は彼に一度だけ会ったことがある。
灯里が彼を紹介してくれる、ずっと前に。
2通目の招待状には、短いメモが同封されていた。
美月へ。来てくれるよね。あなたが来ないと、終われないから。
美月。
その名前で私を呼んだのは、世界で1人だけだ。
佐伯律(さえき・りつ)。
大学時代の恋人。最後の日、私は彼に別れの理由を言わなかった。言えなかったのではなく、言わないと決めた。言えば、律は灯里を責めたはずだから。
そして灯里は、責められるべきことをしていた。
私は2通目を伏せた。紙の白さが、昔の沈黙に似ていた。
3通目は、他の2通と少し違った。宛名の文字だけが手書きだった。
四人目の恋人様
冗談にしては、丁寧すぎる字だった。
中には招待状ではなく、座席表のコピーが入っていた。新郎側、新婦側、親族、友人。そこに、赤いペンで丸がつけられている。
私の席ではない。
新郎の隣。
本来なら新婦が座る場所に、赤い丸があった。
その下に、灯里の字で一行だけ書かれていた。
本当に私が花嫁でいいと思う?
心臓が、嫌な音を立てた。
私は灯里に電話をかけた。出ない。メッセージを送った。既読はつかない。
代わりに、10年以上連絡を取っていなかった律から着信が入った。
出るべきではないと思った。出なければならないとも思った。
指が勝手に通話をつないだ。
「招待状、届いた?」
律の声は、記憶より低かった。
「3通」
私がそう答えると、電話の向こうで律が息を呑んだ。
「俺には2通だった」
「3通目は?」
「ない。けど、代わりに写真が入ってた」
「何の写真」
律は少し黙った。
その沈黙だけで、私はもう見たくないものを見てしまった気がした。
「俺と、灯里と、周が写ってる」
「3人で会ってたの?」
「違う」
律の声が、かすかに揺れた。
「写真を撮ったのは、たぶん君だ」
私はそんな写真を撮った覚えがない。
けれど、覚えていないことと、起きていないことは違う。
テーブルの上で、3通目の招待状が少しだけ開いていた。赤い丸のついた席の横に、小さな文字が印刷されている。
4人目は、最初から式場にいる。
四人目の恋人
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