旧中継器の蓋を開ける前に、朔は交換電池の番号をもう一度数えた。二個という記載は予備を隠した証拠ではない。翌朝返された古い電池まで同じ欄に入る。昨夜、数字だけで誰かを疑いかけた自分の声が残っている。律は返却票の時刻を並べ、「内側に入る前に、外側で分かることを確定しましょう」と言った。部品の故障を見つけても、七年前に誰が停止札を読んだかまでは分からない。
保守室には当時の実機ではなく、取り外されていた記憶部だけが届いた。患者の搬送先を含む走行記録は別の封印箱に残す。久世が立会いの範囲を読み上げ、環は自分が三年前の横断検索を許した当事者だと申告して、分析結果の採否から外れた。朔も零号裁定を承認した当事者である。彼は機械の構造を説明するが、責任を確定する会議の票は持たない。全員が退けば調査は止まる。だから退く箇所を紙に書き、残る仕事も書いた。
記憶部の最初の画面は、七年前の「確認保留」の時刻だった。人が押した操作であることは変わらない。次に出たのは、その直後の再起動理由。「電圧低下」ではなく「窓口切替」で、整備台帳の分類とも違っていた。律はすぐに訂正票の宛先へ線を引きそうになり、鉛筆を止める。窓口切替は設定された移動先の番号を変える処理であって、誰かが現場から車を移した証拠ではない。二重線が示した転送と、装置内部の切替は、似た名前の別の出来事だった。
朔は古い設計図に手を置いた。自分が若い頃に提案した機能がある。返答の途中で担当窓口が変われば、本文を消し、受信番号だけ残して再起動する。古い担当者が新しい人の返事を装うのを防ぐためだ。安全のための消去だった。しかし送り手の画面には「番号受信済」とだけ出る。本文を読めなかった事実は向こうへ戻らない。「僕がその表示を選んだ」と朔は言った。設計への関与と、七年前に操作した人の同定はまだ別だと律が記録した。
再起動の前後には、二つの時刻が並んでいた。固定窓口の時計と移動窓口の時計は三分ずれる。昨日の補正を当てても、停止札が人の保留操作より先に全文表示されたかは決まらない。画面は保留の対象を番号としてしか残していない。朔は「停止を見たのに無視した」と言いたくなる自分を抑えた。誰かを責めたいのではなく、自分の承認を外から止めてくれた人がいたと信じたいのかもしれない。その期待も証拠の欄から外した。
一方、訂正票は意味を変えた。再起動後、固定窓口が宛先を再照会した際に自動で作られた外紙だった。停止札を追いかけて訂正したのではない。途切れた返事を待つための紙で、本文を再送した記録はない。律は七年前の報告書の「受領拒否」を二重線で消さず、その右へ「設備は番号を受信。人は保留操作。本文受領は未確認。再起動後、固定側は宛先だけ再照会」と書き添えた。消してしまえば、なぜ間違えたかを次の人が読めない。
現行の夜間訓練でも、同じ欠陥が出た。車が動き出した時、固定側の呼出音が聞こえず、移動側の担当者は受信番号だけを見ていた。訓練係は「番号があるから届いたと思いました」と言った。朔は古い自分の設計を擁護する文章を取り下げた。受信番号は装置に残っただけだと表示し、交代後の担当者が対象と時刻を読み返すまで、送り手へ「確認待ち」を残す案に変えた。実運用への反映は当番の合意後にする。今夜この場で紙一枚を差し替えて済ませない。
午後、診療所から支援継続の確認が来た。七年前の経路を調べている間も、現在の患者に届く薬を止めないという、毎日の小さな確認だった。久世は搬送先の照会欄を伏せ、到着の有無だけを担当者へ返した。朔はその伏せられた欄を見ない。真実を知る資格があるという気持ちと、他人の医療情報へ入る資格は同じではない。梢は診療所の近くにいるが、今日も保護記録の内側からは出てこなかった。
環が別の箱を運んできた。零号裁定の承認画面を印刷した七年前の保全紙だ。朔がこれまで見た写しには、改ざんされた被害予測と承認時刻がある。今日の紙には、その間に折り込まれた小さな確認欄が残っていた。「現場からの異議・到達未確認」。修正液の跡はない。古い機械で印刷すると、欄が紙の折り目へ隠れる。三年前の電子化で、その折り目ごと欄が抜けた。原本を持ってきた書記は、誰が抜いたかは分からないと言った。
朔は紙を開いたまましばらく動かなかった。予測値は改ざんされていた。救助が始まった時刻も、診療所の受入れ十九時四十二分と屋外案内十九時四十九分を一つにされた。その二つが朔を「救助を始めた人」に見せた。だが折り目の内側にあるのは、彼を守らない一文だ。現場から何かが来ていたこと、その内容がまだ届いていないことを、承認画面は知らせている。「これを見た覚えがあります」と言いかけて、朔は口を閉じた。覚えているという感覚を、原本の事実に混ぜてはいけない。
久世は七年前の操作記録を別に出した。画面の確認欄は開かれ、その後に承認ボタンが押されている。誰の指かを記録は写さない。しかし朔の認証で開いた画面であり、承認はその認証に結びついている。代理操作を示す根拠は見つかっていない。久世は自分の弟が少数へ数えられた日の記録だと告げた上で、判断者にはならないと申し出た。「疑う権利はある。でも、それを証拠の代わりに置かない」。声が荒くならないことの方が、朔には重かった。
朔は隣の窓から港を見た。七年前、すべてを知って選んだわけではない。だから被害予測の改ざんを追う。だが「異議・到達未確認」を開いた後に押したという記録まで、改ざんのせいにはできない。自分の記憶には、あの短い警告を読んだ瞬間が戻らない。ただ、押した手の重さだけが身体に残っている気がした。身体の感覚も裁定には出さない。記録に出せるのは、確認欄が開かれたこと、認証が朔のものだったこと、代理の証拠がないこと、そして記憶には空白があることだ。
芽衣は報道用の原稿を持って来ていた。見出し案は「被害者のはずの男が自分で国を切った」。事実を鋭くするほど、診療所の遅れや現場の五つの判断が消える。芽衣は朔の顔色を見てから、自分でその見出しを消した。「あなたを守るためじゃない。これだと、また一人で七分を作ったことになる」。代わりに彼女は、改ざんされた予測、届かなかった異議、朔の承認、現場の継続した救助を、それぞれ別の主語で書いた。公開前に守るべき身元の範囲は、朔でなく外部の確認者へ渡す。
環は朔に、限定審議で何を言うか尋ねた。黙っても、原本は残る。全部話しても、灯の封筒まで公開する権限はない。朔はまず「知らなかった」と言おうとした。しかし彼が知らなかったのは異議の本文であり、異議が到達していない事実は画面に表示されていた。その違いを曖昧にした瞬間、昔の報告書と同じになる。「内容は知らなかった。届いていないと表示されていたことを、確認してから押した可能性が高い」と、彼は文を直した。「可能性が高い」の末尾は、操作記録が指そのものを写していないために残した。
審議の前に、灯から午前に選んだ時刻の連絡が入った。外紙の扱いが変わるなら知らせてほしい。朔は「七年前の僕の承認について、新しい原本が出た」とだけ話した。灯はしばらく黙り、「私の封筒の中身と関係がありますか」と尋ねた。「今の証拠では結べない」と朔は答えた。「じゃあ、私のものは開けないで。お父さんがしたことを私が許したかどうかも、今日の会議に使わないで」。朔は返事を急がず、彼女が選んだ条件を復唱した。灯はそれで通話を終えた。父を励ます言葉はなかった。それが灯の権利だった。
梢からは、灯の条件を変更しないという短い連絡が環へ届いた。梢は七年前に「被害者はいなかった」という秘匿案を書いた当事者であり、その文が補償を閉じる文へ変わったことを認めている。彼女の言葉を朔の弁護に使うこともできない。環は連絡の原文を封印し、会議には「本人資料を独立保護」の一行だけを出した。朔は妻が何を思うか尋ねなかった。いま言える謝罪は、相手へ返答を要求する道具になりやすい。
律は旧中継器の分析を終え、訂正票の宛先が変わった時刻を確定した。保留の直後、窓口切替、再起動、番号のみ保存、固定側の宛先再照会。順序はそれで決まる。けれど停止札の本文が誰かへ読まれたかは決まらない。「機械を開いても人の内側は見えません」と律は言った。朔はその言葉を、分からないままでよいという免罪符にはしない。未確認を未確認のまま渡せる制度が要る。そうでなければ次の誰かが、空欄を同意や拒否へ勝手に置き換える。
限定審議は庁舎の小さな部屋で開かれた。記録官と二人の外部確認者が座り、環と久世は証拠の提供者として別席へ移った。朔は最初に、改ざんされた予測について調査を続けるよう求めた。次に自分の認証で零号裁定が承認された記録を認めた。「異議の内容は届いていなかった。届いていないことは表示されていた。私は、その表示を開いた後に承認した記録から逃げません」。指を写した映像がないため、操作者を法的に断定しないことも付け加えた。責任を薄めるためではなく、ほかの証拠へ勝手な形を与えないために。
一人の確認者が「改ざんがなければ押さなかったか」と聞いた。朔は答えを持たない。「押さなかったと言えば、知らない過去を都合よく作る。押したと言えば、それも同じです」。予測の改ざんをした者の責任は、朔の承認によって消えない。朔の承認も、改ざんによって消えない。二つを一枚の紙へ重ねず、別の調査番号で進めてほしいと求めた。確認者はその要求を記録し、保護された生存者の照会を承認調査へ混ぜないと明記した。
別の確認者は七分間に救われた人数を尋ねた。朔は数字を挙げなかった。診療所の受入れは承認より前に始まり、屋外案内は後に始まった。北側連絡路では担架の指示が欠け、移動窓口では停止札の本文受領が未確認。五つの現場判断は同じ一人の功績にまとめられない。救われた人を数えるなら、本人が被害を申し立てられる窓口も同時に残すべきだ。朔が英雄でも悪人でも、その日の遅れを経験した人の時間は戻らない。
久世は弟の番号K-17を、この審議へ持ち込まなかった。代わりに現在の試行票を示し、役割が交代した後の再確認、返答が来ない時の別回線、患者搬送を一律に止めない現場判断について説明した。「七年前の誰かを当てるための規則ではありません。今夜、同じ空欄をつくらないための規則です」。彼の手は紙の端を強く押さえていた。弟について話す順番を守ることは、弟を忘れることではない。
審議は朔の責任を今日ここで裁定しなかった。保全した証拠の公開範囲、支援の継続、独立した責任調査を分けた。朔が望めば謝罪文を先に出せると言われたが、彼は「被害の相手を僕が選ぶ文章にはしたくない」と答えた。代わりに操作記録と自分の申告を、匿名の被害登録窓口からも読める形へ整えることに同意した。個人情報の伏せ方は外部確認者が決め、異議を出す人には訂正を求める経路を残す。公開は救済の代わりにならない。
夕方、芽衣の原稿の見出しが決まった。「押した人と、届かなかった声」。朔の名前を伏せた記事ではない。だがその名前を最初の答えにもしなかった。記事には、十九時四十二分と四十九分の違い、受領箱の印が本人同意へ変わった経路、装置の番号受信と人の本文受領の差が並ぶ。読者が先に見た手がかりだけで、今日の結論へ戻れるようにした。芽衣は未確認の現場確認者を匿名の犯人として描かず、調査継続の理由として残した。
朔は庁舎を出る前に、承認画面の写しをもう一度見た。折り目の内側の警告は小さい。見落としたと語る方が、ある意味では自分に優しい。しかし操作記録ではその欄が開かれている。内容の届かない異議を知りながら押した人として、彼は七年を引き受ける。「改ざんされた予測を信じた」と「自分で押した」は、反対の文章ではない。両方を書いて初めて、次の人が同じ画面で立ち止まる理由になる。
港では、夜の受付係が試行票の最後の欄を直していた。「確認待ち」の相手が交代しても、待っていること自体は消さない。その人は朔の昔を知らない。けれど自分が明日休む時、次の当番へ何を渡すかは知っている。朔は機械の設計図へ一本の線を足すのでなく、受付係の文をそのまま残した。制度を変える人の名を、英雄の名前の下へ隠さないために。
帰り道、環から次の審議の案内が届いた。単独の零号裁定をもう使わないと決めた後にも、災害時に救助を止めず異議を聞く方法は一つに定まっていない。現場の五つの判断から、互いに両立しない五つの救命案が上がっている。どれかを選べば、別の場所に待つ人が出る。朔は案内の下に「最終決定者」の欄がないことを確かめた。空欄ではなく、複数の受領と反対が必要な欄に変わっていた。彼は初めて、誰かが自分を止められる会議へ向かう。
その日の審議に至る前、律は折り目の紙を光へ透かしていた。警告の横に小さな四角がある。画面を開いた時刻を機械が刻む欄で、押下の直前ではなく四十秒前を指していた。四十秒は短い。しかし何も表示されなかったとは言えない長さでもある。律は、朔がその間にどの言葉を読んだかまでは推定しなかった。「四十秒を悔いの長さへ換算しません」。朔はうなずく。数値の正確さと、人の内側についての正確さは同じではない。
確認欄の下には、現場への問い返しという選択肢もあった。朔はそれを見て喉が渇いた。問い返せば救助が遅れた可能性がある。問い返さなければ、異議の理由は届かない。七年前の彼がどちらの危険をどう量ったか、記録は語らない。だが問い返しのボタンは押されていない。以前の報告書では、選択肢そのものが消え、承認以外に道がなかったかのように印刷されていた。久世はその差を別紙にした。選択肢があったことは、正しい選択が容易だった証拠ではない。
外部書記は、問い返しを選ばなかった理由を朔に尋ねる代わりに、当時の表示がどのように見えたかを再現できるか確かめた。古い端末の複製画面には、改ざんされた予測が大きな数字で上に出る。異議の欄は下に折り畳まれ、開くと「到達未確認」の二語が見える。承認と問い返しは同じ大きさのボタンだった。朔は二つのボタンを見た。これは彼を操る巧妙な罠だった、と決めれば少し楽になる。だが罠の形を記述することと、押した責任を捨てることは別だ。
律は端末の再現を中断した。実機の色温度と警報音は残っておらず、複製画面を「当日の朔が見た画面」と公表するのは危うい。書記は模型であると大きく記した。環はそれでも残す意味があると言う。数字の配置は、改ざんされた予測が判断へ入り込む道を示す。ただし配置が人を必ず特定の選択へ導くという実験結果はない。誰かの責任を証明する道具にしないまま、将来の設計を直す資料にはできる。
その時、現行訓練の受付係から電話が入った。試行票で「確認待ち」と表示される間、現場の担架は動かしてよいのか。朔の席の近くで誰もすぐ答えなかった。七年前の後悔を、そのまま今日の一律停止へ変えれば新しい被害が出る。久世が係と搬送責任者を同じ通話へ招き、対象を分けた。再送する案内は保留し、すでに現場が確認した患者の搬送は、その現場の判断で続ける。通話の終わりに、受付係は「誰が何を待つか、書いて送ってください」と求めた。待つことにも担当者が必要だった。
通話を切った後、朔は「現場へ判断を返す」と昔から言ってきた自分の言葉を思い返した。返す先の名前を伏せたまま、受け取ったことを確かめる手順を用意していなかった。現場の自由を守るつもりで、現場の人へ説明の重荷だけを渡していたかもしれない。律は、設計の不備を個人の善意へ吸収しないようにと言った。担当者が疲れていれば返答できない日もある。その日のために別の窓口を残すのが設計だ。朔は試行票に「無応答を同意とみなさない」と書いた。
芽衣は帰り際、記事の公開前に当事者へ反論の機会を渡す方法を尋ねた。朔にだけ原稿を見せれば、患者と受付係の経験を朔が代弁したようになる。全員へ同じ資料を送れば、保護した身元が漏れる。律は事実ごとに確認先を分け、時刻は記録官、現行の試行は受付係、朔の申告は本人へ、それぞれ自分の言葉の範囲だけ戻すよう提案した。芽衣は記者として訂正の最終責任は自分にあると書いた。分散とは、責任を霧にすることではない。
久世は弟の古い識別番号を久しぶりに手帳へ書いた。K-17は今日の中継器の操作をした人を指す番号ではない。それでも久世にとっては、ずっと未着の問いの宛先だった。朔の承認を知った時、弟へ代わって怒りを返せる気がした。だが弟が何を望むか、本人に聞く機会を失ったまま、怒りだけを確定させることもできない。久世は「私の異議は私の名で出す」と決め、番号を公表資料から外した。本人の声がない場所に、兄の声を本人として置かない。
環は三年前の横断検索許可を出した理由を外部確認者へ説明した。身元保護の記録と現場の被害申告を結ぶためだった。だが検索で出た保管箱の番号が「本人意思確認済」と表示される仕様を確かめなかった。善意の目的は、表示の誤りを正しくしない。環は自分の許可を撤回して終わりにせず、誤表示を見た人がどんな判断をしたかを調査する窓口を開いた。そこでまた当事者を検索対象にしないよう、最初の問いは判断した職員へ向ける。
朔は灯へ送る文面を一晩置くことにした。「すまなかった」の一語だけでは、灯が何について返事をすればよいのか押しつけてしまう。反対に長い説明は、彼女の封筒を開けない選択を囲い込む。彼は短く、今日公開されるのは自分の操作記録と自分の申告であり、灯の資料ではないと知らせた。返事は不要だと添え、送信前に別の大人へ読ませた。子どもに慰め役を頼まないための小さな手続きだった。
夜の試行票には、三つの赤い欄が残った。送った側は「相手が何を読んだか」、受けた側は「どの判断を引き受けたか」、交代する側は「何がまだ未確認か」を書く。三欄とも埋まらなければすべてを止めるわけではない。現場が継続できる救助と、新たな指示を出す行為を分ける。朔は赤い色を見て、七年前の画面に足りなかったのはもっと強い警報だけではないと思った。異議を受けた人へ次の問いを渡す線だった。
翌日の五案の草稿には、病院へ先に電力を戻す案、移動窓口を増やす案、地域の拒否権を厚くする案、通信のない場所へ紙の確認者を置く案、すべての保留を中央へ集める案が並んでいた。それぞれ助かる人と待つ人が違う。中央集約は速さを得るが、また一人の選択を必要とする。拒否権を厚くすれば声は届くが、時間を失う患者がいる。どの案にも「被害者なし」とは書けない。朔は一つへ丸をつけず、今いる人の異議がどこへ届くかを各案の欄外へ記した。
草稿の欄外には、誰が集めた案なのか書かれていなかった。環は作成元を照会する前に、五つとも現場から直接上がったと扱わないよう注意を付けた。高城の事務局が以前、異なる陣営へ同じ単独決定者を必要とする制度を残したことを、朔は覚えている。今回も誰かが選択肢を整えすぎているかもしれない。だがその疑いだけで案を捨てれば、現場で困る人の声も消える。朔は各案の提案者と反対者が自分の言葉で説明できる場を求めた。五案の中身だけでなく、五案になった経路が次の調査になる。
最後に朔は、七年前の承認ボタンを押した事実を一行だけ自分の手帳へ書いた。そこへ予測の改ざんも、現場の救助も、灯の名前も押し込めなかった。四つの別の頁が要る。自分の頁を他人へ渡して免責を求めない。他人の頁を奪って贖罪にもしない。港の受付灯が一つずつ点いた。今日の灯は、承認の合図ではなく、返答を待つ人がそこにいるという合図だった。
裏切り者の救命簿
60 / 69
このシリーズの全話 69編
- 第1話:死者から届いた避難命令
- 第2話:明日死ぬ男の事情聴取
- 第3話:7分間だけ消えた町
- 第4話:救助されたことのない生存者
- 第5話:空白の避難地図
- 第6話:妻の声は本人ではない
- 第7話:記者が売った証言
- 第8話:継目室の裏切り者
- 第9話:容疑者を先に救え
- 第10話:八千二百四十一の空席
- 第11話:妻が生きている映像
- 第12話:空席への突入
- 第13話:指導者のいない組織
- 第14話:被害者が作った仕組み
- 第15話:承認者は真壁朔
- 第16話:署名した記憶がない
- 第17話:1人多い救助班
- 第18話:閉鎖病院の稼働記録
- 第19話:拒否された訂正番号
- 第20話:守られた死亡届
- 第21話:帰国便の到着時刻
- 第22話:7年前の開始条件
- 第23話:死亡前の移管先
- 第24話:第0号の起動者
- 第25話:2つ目の死亡時刻
- 第26話:味方を逮捕する日
- 第27話:公開できない救命
- 第28話:家族に知らせない生存
- 第29話:娘が選んだ名字
- 第30話:継目室を売る値段
- 第31話:死者の町へようこそ
- 第32話:到着時刻の死亡札
- 第33話:空欄の2人
- 第34話:搬送されなかった患者
- 第35話:7分後の裏切り者
- 第36話:3人目の真壁朔
- 第37話:芽衣の告発
- 第38話:久世が撃たなかった理由
- 第39話:強硬派の投票
- 第40話:国を止める鍵
- 第41話:死者の反対票
- 第42話:七通の死亡時刻
- 第43話:生存者の死亡診断書
- 第44話:生きている者の反対票
- 第45話:鍵を捨てる裁定
- 第46話:被害者はいなかった
- 第47話:被害届を出せない生存者
- 第48話:同意を書き足した人
- 第49話:開かれなかった審議
- 第50話:未来の名前を知る封筒
- 第51話:同行者の面談
- 第52話:受け取られた理由書
- 第53話:二人分の同意番号
- 第54話:正義を分けた七分
- 第55話:朔を守った改ざん
- 第56話:北側連絡路の担架
- 第57話:空席の当番
- 第58話:届かなかった停止札
- 第59話:動いた窓口の受取人
- 第60話:自分で押したボタン
- 第61話:五つの救命案
- 第62話:味方だけの会議はしない
- 第63話:届かなかった異議の立会人
- 第64話:梢と環の共同声明
- 第65話:消えた二人目の受取先
- 第66話:本人へ戻せ
- 第67話:保留を配布に変えた机
- 第68話:空白の引継署名
- 第69話:戻るはずだった先
裏切り者の救命簿
60 / 74
このシリーズの全話 74編
- 第1話:死者から届いた避難命令
- 第2話:明日死ぬ男の事情聴取
- 第3話:7分間だけ消えた町
- 第4話:救助されたことのない生存者
- 第5話:空白の避難地図
- 第6話:妻の声は本人ではない
- 第7話:記者が売った証言
- 第8話:継目室の裏切り者
- 第9話:容疑者を先に救え
- 第10話:八千二百四十一の空席
- 第11話:妻が生きている映像
- 第12話:空席への突入
- 第13話:指導者のいない組織
- 第14話:被害者が作った仕組み
- 第15話:承認者は真壁朔
- 第16話:署名した記憶がない
- 第17話:1人多い救助班
- 第18話:閉鎖病院の稼働記録
- 第19話:拒否された訂正番号
- 第20話:守られた死亡届
- 第21話:帰国便の到着時刻
- 第22話:7年前の開始条件
- 第23話:死亡前の移管先
- 第24話:第0号の起動者
- 第25話:2つ目の死亡時刻
- 第26話:味方を逮捕する日
- 第27話:公開できない救命
- 第28話:家族に知らせない生存
- 第29話:娘が選んだ名字
- 第30話:継目室を売る値段
- 第31話:死者の町へようこそ
- 第32話:到着時刻の死亡札
- 第33話:空欄の2人
- 第34話:搬送されなかった患者
- 第35話:7分後の裏切り者
- 第36話:3人目の真壁朔
- 第37話:芽衣の告発
- 第38話:久世が撃たなかった理由
- 第39話:強硬派の投票
- 第40話:国を止める鍵
- 第41話:死者の反対票
- 第42話:七通の死亡時刻
- 第43話:生存者の死亡診断書
- 第44話:生きている者の反対票
- 第45話:鍵を捨てる裁定
- 第46話:被害者はいなかった
- 第47話:被害届を出せない生存者
- 第48話:同意を書き足した人
- 第49話:開かれなかった審議
- 第50話:未来の名前を知る封筒
- 第51話:同行者の面談
- 第52話:受け取られた理由書
- 第53話:二人分の同意番号
- 第54話:正義を分けた七分
- 第55話:朔を守った改ざん
- 第56話:北側連絡路の担架
- 第57話:空席の当番
- 第58話:届かなかった停止札
- 第59話:動いた窓口の受取人
- 第60話:自分で押したボタン
- 第61話:五つの救命案
- 第62話:味方だけの会議はしない
- 第63話:届かなかった異議の立会人
- 第64話:梢と環の共同声明
- 第65話:消えた二人目の受取先
- 第66話:本人へ戻せ
- 第67話:保留を配布に変えた机
- 第68話:空白の引継署名
- 第69話:戻るはずだった先
- 第70話:消えた席の返事
- 第71話:返事を待たない代替席
- 第72話:裏口の返送先
- 第73話:届かなかった通知
- 第74話:丸印の臨時連絡員
裏切り者の救命簿
60 / 74
このシリーズの全話 74編
- 第1話:死者から届いた避難命令
- 第2話:明日死ぬ男の事情聴取
- 第3話:7分間だけ消えた町
- 第4話:救助されたことのない生存者
- 第5話:空白の避難地図
- 第6話:妻の声は本人ではない
- 第7話:記者が売った証言
- 第8話:継目室の裏切り者
- 第9話:容疑者を先に救え
- 第10話:八千二百四十一の空席
- 第11話:妻が生きている映像
- 第12話:空席への突入
- 第13話:指導者のいない組織
- 第14話:被害者が作った仕組み
- 第15話:承認者は真壁朔
- 第16話:署名した記憶がない
- 第17話:1人多い救助班
- 第18話:閉鎖病院の稼働記録
- 第19話:拒否された訂正番号
- 第20話:守られた死亡届
- 第21話:帰国便の到着時刻
- 第22話:7年前の開始条件
- 第23話:死亡前の移管先
- 第24話:第0号の起動者
- 第25話:2つ目の死亡時刻
- 第26話:味方を逮捕する日
- 第27話:公開できない救命
- 第28話:家族に知らせない生存
- 第29話:娘が選んだ名字
- 第30話:継目室を売る値段
- 第31話:死者の町へようこそ
- 第32話:到着時刻の死亡札
- 第33話:空欄の2人
- 第34話:搬送されなかった患者
- 第35話:7分後の裏切り者
- 第36話:3人目の真壁朔
- 第37話:芽衣の告発
- 第38話:久世が撃たなかった理由
- 第39話:強硬派の投票
- 第40話:国を止める鍵
- 第41話:死者の反対票
- 第42話:七通の死亡時刻
- 第43話:生存者の死亡診断書
- 第44話:生きている者の反対票
- 第45話:鍵を捨てる裁定
- 第46話:被害者はいなかった
- 第47話:被害届を出せない生存者
- 第48話:同意を書き足した人
- 第49話:開かれなかった審議
- 第50話:未来の名前を知る封筒
- 第51話:同行者の面談
- 第52話:受け取られた理由書
- 第53話:二人分の同意番号
- 第54話:正義を分けた七分
- 第55話:朔を守った改ざん
- 第56話:北側連絡路の担架
- 第57話:空席の当番
- 第58話:届かなかった停止札
- 第59話:動いた窓口の受取人
- 第60話:自分で押したボタン
- 第61話:五つの救命案
- 第62話:味方だけの会議はしない
- 第63話:届かなかった異議の立会人
- 第64話:梢と環の共同声明
- 第65話:消えた二人目の受取先
- 第66話:本人へ戻せ
- 第67話:保留を配布に変えた机
- 第68話:空白の引継署名
- 第69話:戻るはずだった先
- 第70話:消えた席の返事
- 第71話:返事を待たない代替席
- 第72話:裏口の返送先
- 第73話:届かなかった通知
- 第74話:丸印の臨時連絡員
裏切り者の救命簿
60 / 74
このシリーズの全話 74編
- 第1話:死者から届いた避難命令
- 第2話:明日死ぬ男の事情聴取
- 第3話:7分間だけ消えた町
- 第4話:救助されたことのない生存者
- 第5話:空白の避難地図
- 第6話:妻の声は本人ではない
- 第7話:記者が売った証言
- 第8話:継目室の裏切り者
- 第9話:容疑者を先に救え
- 第10話:八千二百四十一の空席
- 第11話:妻が生きている映像
- 第12話:空席への突入
- 第13話:指導者のいない組織
- 第14話:被害者が作った仕組み
- 第15話:承認者は真壁朔
- 第16話:署名した記憶がない
- 第17話:1人多い救助班
- 第18話:閉鎖病院の稼働記録
- 第19話:拒否された訂正番号
- 第20話:守られた死亡届
- 第21話:帰国便の到着時刻
- 第22話:7年前の開始条件
- 第23話:死亡前の移管先
- 第24話:第0号の起動者
- 第25話:2つ目の死亡時刻
- 第26話:味方を逮捕する日
- 第27話:公開できない救命
- 第28話:家族に知らせない生存
- 第29話:娘が選んだ名字
- 第30話:継目室を売る値段
- 第31話:死者の町へようこそ
- 第32話:到着時刻の死亡札
- 第33話:空欄の2人
- 第34話:搬送されなかった患者
- 第35話:7分後の裏切り者
- 第36話:3人目の真壁朔
- 第37話:芽衣の告発
- 第38話:久世が撃たなかった理由
- 第39話:強硬派の投票
- 第40話:国を止める鍵
- 第41話:死者の反対票
- 第42話:七通の死亡時刻
- 第43話:生存者の死亡診断書
- 第44話:生きている者の反対票
- 第45話:鍵を捨てる裁定
- 第46話:被害者はいなかった
- 第47話:被害届を出せない生存者
- 第48話:同意を書き足した人
- 第49話:開かれなかった審議
- 第50話:未来の名前を知る封筒
- 第51話:同行者の面談
- 第52話:受け取られた理由書
- 第53話:二人分の同意番号
- 第54話:正義を分けた七分
- 第55話:朔を守った改ざん
- 第56話:北側連絡路の担架
- 第57話:空席の当番
- 第58話:届かなかった停止札
- 第59話:動いた窓口の受取人
- 第60話:自分で押したボタン
- 第61話:五つの救命案
- 第62話:味方だけの会議はしない
- 第63話:届かなかった異議の立会人
- 第64話:梢と環の共同声明
- 第65話:消えた二人目の受取先
- 第66話:本人へ戻せ
- 第67話:保留を配布に変えた机
- 第68話:空白の引継署名
- 第69話:戻るはずだった先
- 第70話:消えた席の返事
- 第71話:返事を待たない代替席
- 第72話:裏口の返送先
- 第73話:届かなかった通知
- 第74話:丸印の臨時連絡員

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